「ヒトの卵巣の中の卵子の数は、加齢とともに減っていく。原則として増えることはない」
ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、さまざまな研究からほぼ間違いないと考えられています。
しかし一体どうやってそのようなことを調べることができたのか?
今日はその研究のひとつを紹介します。
スコットランドのエディンバラ大学からの報告です。
妊娠7週の胎児から51歳までの325人の女性の摘出された卵巣の病理標本を用いて、卵巣の中にある卵胞(卵子を包む袋)の数をカウントしました。
カウントと云っても、卵巣全体の標本を観察することは事実上不可能と云ってよいでしょう。
なぜならば、顕微鏡で適正に観察するためにはプレパラート標本は4~5μm(1㎜の1000分の1)の厚さで作成する必要があります。
成人女性の卵巣は最大径で3~4㎝もありますから、大雑把
に見積もっても1万枚程度のプレパラート標本を作らねばならず、観察も相当大変な作業なのです。
※プレパラート標本とは、病理の顕微鏡標本です。さまざまな染色が施された数μmの厚さの組織が載っているスライドガラスです。
そこで研究者たちは可能な範囲で標本をできるだけ観察し、この結果をもとに年齢と卵巣内に残存する卵胞の数を関数化した推測式をいくつか算出しました。そのなかから再評価により最も優れた、推測式(Wallace-Kelseyモデル)を採用しました。
その結果をグラフにしたものが次の画像です。
※画像出典元 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2811725/figure/pone-0008772-g001/
横軸が年齢、縦軸が残存卵胞数で、縦線の箇所が出生時の値です(縦軸は対数表示になっていることに注意してください)。
年齢と残存卵胞数の関係は、車のワイパーの軌跡のような曲線となっている事が分かります。
残存卵胞数は、胎児期~出生時に最大で、以降は減少の一途をたどります。
なんと初潮時(この研究の対象患者では平均13歳)にすでに多くの卵胞が失われ、30歳までに出生時の88%が、40歳までには97%が失われるというショッキングな結果が示されています。
もちろんこの式が絶対正解とは云えませんが、その他の研究報告もこの結果を支持する結果となっています。
この内容は、学校教育の現場でも取り入れていくべきではないかと個人的に思います。
出典:Wallace WH, Kelsey TW. Human ovarian reserve from conception to the menopause. PLoS One. 2010;5(1):e8772.
<ブログ記事の監修者>
北宅弘太郎(KOUTARO KITAYA)
医療法人倖生会 桂駅前 Mihara Clinic 院長
専門医:生殖医療専門医・産婦人科専門医