いろいろなサプリメントがドラッグストアや通販サイトで販売されており、妊活中や妊娠中にサプリメントを服用する女性は世界的に増加しています。
その中で妊娠を目指す女性が服用しておくべきサプリメントとしては、「葉酸【ようさん】」が有名です。
妊娠前から妊娠初期にかけての葉酸の補給により、赤ちゃんの「神経管欠損症(二分脊椎【にぶんせきつい】/髄膜瘤【ずいまくりゅう】)」という神経系の病気の予防効果があることが多くの研究から示されています。
また妊娠中のビタミンD補給にも胎児の成長へのプラスの作用、子供の自閉症スペクトラム発症低下といった効果が期待されています。
一方で、妊活中に服用するのは望ましくないサプリメントがあることはご存じでしょうか?
そのひとつが、今日紹介する「ビタミンA」です。
ビタミンAは、レチノール、レチナール、レチニルエステルなどの脂溶性レチノイド類と呼ばれる分子の総称で、免疫系、視覚系、生殖系や胚の発生に重要な役割を担います。
しかしながら、過剰なビタミンAの摂取は胎児の先天性疾患を引き起こす可能性があることが古くから知られています。
特に頭部神経堤【とうぶしんけいてい】と呼ばれる部分の発生に作用し、眼、頭蓋【ずがい】、肺、心臓などの先天性疾患に関係することが証明されています。
では、どのくらいの量の摂取によって胎児の先天性疾患のリスクが増加するのでしょうか?
それは、「1日に3,000μgRAEを超える摂取はリスク因子になる」と言われております。
RAEというのは、レチノール活性当量(retinol activity equivalents)の略です。
なぜこのような耳慣れないRAEというような単位が用いられるかというと、ビタミンAやその前駆体【ぜんくたい】であるプロビタミンAには様々な種類があり、分子ごとに活性がそれぞれ異なるためです。
※前駆体:ある物質が生成される前の段階にある物質のこと。
一方、食品やサプリメントのラベル表記には、国際単位IU【アイユー】が多く用いられています。
μgRAE【マイクログラムレチノール活性当量】とIUの換算は容易ではありません。
たとえば900 μgRAEを含む食事の摂取をした場合、摂取した食品やサプリメントの種類によって3,000〜36,000 IUと幅が生じます。
1日あたりの食事およびサプリメントからの10,000 IUのプロビタミンAの摂取により、胎児57人のうち1人が先天性疾患を発症すると推定されています。
ビタミンAは必要な栄養素ではありますが、食事やサプリメントからの多量摂取は控えた方がよさそうです。
◆用語解説
・神経管欠損症【しんけいかんけっそんしょう】
神経管欠損症とは、脳、脊椎、または脊髄の先天性の欠損症。一般的な神経管欠損として、二分脊椎、髄膜瘤、無脳症などがあります。
・二分脊椎【にぶんせきつい】/髄膜瘤【ずいまくりゅう】
二分脊椎とは、妊娠の初期段階において何らかの原因で脊髄が背骨で覆われない状態になってしまうこと。
二分脊椎には神経の組織が皮膚に覆われている潜在性二分脊椎と、皮膚に覆われていない脊髄髄膜瘤【せきずいずいまくりゅう】(開放性二分脊椎ともいう)があります。
・頭部神経堤【とうぶしんけいてい】
胚発生の過程で形成される神経堤の一つ。顔面頭蓋や咽頭弓・咽頭嚢に侵入して、頭部骨格や神経細胞などを形成します。
・プロビタミンA
体の中でビタミンAに変換されるカロテノイド類の総称です。カロテノイドは赤や黄などの色素成分で、植物性食品に多く含まれています。プロビタミンAを含む食品としては、「ホウレン草、ニンジンなどの緑黄色野菜」、「カボチャ」等です。
出典:K J Rothman et al., N Engl J Med. 1995 Nov 23;333(21):1369-73.
出典:厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c03/06.html
<ブログ記事の監修者>
北宅弘太郎(KOUTARO KITAYA)
医療法人倖生会 桂駅前 Mihara Clinic 院長
専門医:生殖医療専門医・産婦人科専門医