出典:Sorena Keihani et al., Semen parameter thresholds and time-to-conception in subfertile couples: how high is high enough? Hum Reprod. 2021 Jun 7;deab133.
定期的に改訂されており、最新版は2021年のものです。不妊診療でよく用いられるのは、以下の5項目です。
- 精液量:1.4ml以上
- 精子濃度:1600万/ml以上
- 運動率:42%以上
- 前進運動率:30%以上
- 正常形態率:4%以上
しかし、タイミング療法で妊娠に成功するにはどの程度の精液所見が必要なのか?、これについては十分な検証はされていません。
今回紹介するのは、米国・ユタ州からの報告です。
(出典:Sorena Keihani et al., Hum Reprod. 2021 Jun 7;deab133.)
2002~2017年の期間に、初回の精液検査を受けた6,061人の男性について、パートナーとの妊娠成立状況をその後5年間かけて追跡した縦断研究です。
65%のカップルで、初回精液検査から5年以内に妊娠が成立していました(中央値22か月、95% 信頼区間: 21-23か月)。
5年以内妊娠成立を予測する因子として最も優れていたのは、
「総前進運動精子数」(TPMC, total progressive motile sperm count)
でした。
精子の中には前進性の高いもの、円運動を行うもの、かろうじて尾部を振っているものなどいろいろな運動パターンがみられますが、その中で前進性の高い精子の数がタイミング療法の成否を決める要因となっていました。
全体で見るとTPMC5,000万以上の男性では、5,000万未満男性に比べて5年以内の妊娠成立のチャンスが45%も高く(ハザード比: 1.45; 95%信頼区間: 1.34-1.58)、不妊治療期間も中央値で約1年半以上も短い(中央値19か月 (95% CI: 18-20) vs 36か月 (95%信頼区間: 32-41))ことが明らかになりました。
自然妊娠/タイミング療法の妊娠に限ると、女性側に不妊因子のないカップルではTPMC2,000万以上で、5年以内妊娠成立のチャンスが高いことも分かりました。
人種/民族差/宗教バイアスにも注意が必要ですが、忍耐と蓄積を要する5年間の縦断研究は敬意に値します。
「TPMC2000万以上で自然妊娠/タイミング法妊娠のチャンスが高い」というのは、注目すべきデータではないでしょうか。
TPMCは、WHO5項目では「精子濃度×精液量×前進運動率/100」で算出されます。
お手持ちの精液所見があれば、ぜひ計算してみてください。
今後の治療方針を決めるうえで、判断材料になるかもしれません。
<ブログ記事の監修者>
医療法人倖生会 桂駅前 Mihara Clinic 院長
専門医:生殖医療専門医・産婦人科専門医